78 回 映画のことを語ろう(7月号)

西島雄造


    〔わが銀幕にも雨が降る〕
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 ときに新聞も意表を突いた紙面をつくる。梅雨入りを前に、日経が企画した《雨で思い出す映画》は、全国の男女1000人に尋ねた結果のトップ10。そのまま紹介すると―。

 1「雨に唄えば」(米1952) 2「シェルブールの雨傘」(仏1964) 3「黒い雨」(日本1989) 4「ブラック・レイン」(米1989) 5「レインマン」(米1988) 6「雨あがる」(日本1999) 7「七人の侍」(日本1954) 8「ショーシャンクの空」(米1994) 9「いま、会いにゆきます」(日本2004) 10「となりのトトロ」(日本1988)。

 意外性があるような、ないような。10本のうち、すでに古典的とも言える作品は3本。残りは1980年代以降。素人が選んだ良さとも言えそうだ。表中の<雨が降る場面の絵時間数>というのが面白かった。ビデオ、DVD時代だから簡単に計れる。それによると「雨に唄えば」が5分、「シェルブールの雨傘」が8分、「黒い雨」は2分。最長は「七人の侍」の13分。篠つく雨の中の合戦は、黒澤明監督の演出力を日本映画史に刻みつけた。

 寄せられた約250作品のうち、雨の文字で始まる題名は約1割だったそうだ。「ティファニーで朝食を」(ブレーク・エドワーズ監督1961)を、「雨中のラストは歴史に残るラブシーン」と推す田沼雄一さんは、さすが見巧者の映画評論家。「タイトルに雨と入れると女性客が増える」とか。ヴェルレーヌの詩ではないが、雨は人の心を感傷的にするらしい。


(写真:「西の魔女が死んだ」)

 つられて手元のキネマ旬報を開いてみたら、雨で始まる題名は「日本映画作品全集」(1972年まで収載)には8本あったが、名作といえるものはない。「アメリカ映画作品全集」(1971年まで)の邦題では9本、うち原題にRainが入っていたのは5本。「ヨーロッパ映画全集」(1971年まで)には5本中ルネ・クレマン監督の「雨の訪問者」(1970)1本だけ。

 雨を題名に入れるのは宣伝部のテクニックらしい。「雨の朝巴里に死す」(リチャード・ブルックス監督1954)の原題は「THE  LAST  TIME  I  SAW  PARIS」だし、「雨のしのび逢い」(ピーター・ブルック監督1960)は「MODERATO  CANTABIRE」。昔の宣伝部がいかに題名に知恵をしぼったかが、よくわかる。「雨を降らす男」など、今ならさしずめ原題そのままの「RAIN MAKER」になっていたかも知れない。

 記憶をたぐれば、「雨ぞ降る」(The Rains Came=クラレンス・ブラウン監督1939)を第一に挙げたい。マーナ・ロイの人妻とタイロン・パワーのインド人医師の道ならぬ恋。インドのモンスーン雨のすさまじさは鮮烈だった。のちに同じFOXでリメイクされたのが「雨のランチプール」(The  Rains  of  Ranchipur=ジーン・ネグレスコ監督1955)。ラナ・ターナーとリチャード・バートン主演でカラーになった。

 サマセット・モームの原作「雨」(1932)は「西部戦線異状なし」「凱旋門」のルイス・マイルストン監督。1954年には「雨に濡れた欲情」(Miss Sadie  Thompson=カーティス・バーンハート監督)の題でリメイク。リタ・ヘイワースがアルド・レイのハーモニカで歌う場面が見せ場だった。


 場面として忘れられないのは、ルネ・クレールの名品「巴里祭」(1932)のにわか雨や、オードリー・ヘプバーンがナターシャを演じた「戦争と平和」(キング・ヴィダー監督1956)の窓を濡らす雨。ジャン・ギャバンとフランソワーズ・アルヌールの「ヘッドライト」(アンリ・ヴェルヌイユ監督1956)など、数え上げればきりがない。「史上最大の作戦」(ケン・アナキン監督ほか1962)の雨は、第二次世界大戦の終焉を告げる歴史的な雨だった。ウィンストン・チャーチルの回顧録にも詳述されている。邦画では「魚影の群れ」(相米慎二監督1983)で、十朱幸代が土砂降りの中を歩く場面が好みだ。「乱れる」(成瀬巳喜男監督1964)も捨てがたい。

(写真:「告発のとき」)

 さて7月。まずは5日から東京・岩波ホールで上映される「火垂るの墓」を推す。改めて言うまでもなく、野坂昭如の直木賞作品を、スタジオジブリが1988年に高畑勲監督でアニメ化しているし、日本テレビが終戦六十年スペシャルドラマとして、2005年11月1日に放送、高畑作品に劣らぬ深い感動をもたらした。

 今作は昨年他界した黒木和雄監督の企画を受け継いで、日向寺太郎監督が兵庫県でロケ撮影した。珠玉の作品に向かう誠実さが感じられる。粗筋は書くこともないだろう。1945年3月から6月にかけて神戸に繰り返された大空襲で、戦災孤児となった14歳の清太と4歳の妹節子。吉武怜朗、畠山彩奈の二人から、アニメがファンに刻み付けたものとはまた違った味わいを引き出した。音楽(谷川公子+渡辺香津美)も日本テレビ版の間宮芳生と同様に静謐さを漂わせて胸に響く。

 「西の魔女が死んだ」(長崎俊一監督)も親子で見てほしい。原作は梨木香歩のベストセラー。おばあちゃんと中学3年生の孫娘の物語。ちょっと通学が重荷になっていた少女・まい(高橋真悠)。母親の発案で、自然に親しんで暮らすおばあちゃん(サチ・パーカー)と過ごすことになった。なんと、おばあちゃんは魔女の血筋らしい。なるほど、草木に対する心や知恵、知識、ものごとを見通す力を備えている。都会っ子まいの“魔女修行”が始まった。野イチゴでジャムを作ったり、ハーブティーを野菜に注いだり。自然と共生することは、決して生易しいことではないが、楽しさもひとしお。

 おばあちゃん役のサチはシャーリー・マクレーンの娘。おおらかで包み込むような表情やしぐさが魅力で、気持ちのいい雰囲気を醸す。高橋はこれが映画デビュー。光と影を巧みにとらえた画調。森の中にいるような、ゆったりと穏やかな心地よさを味わえる。


(写真:「クライマーズ・ハイ」)

 ハリウッドは、思い出したように軍部の恥部を暴く。「告発のとき」はミステリー仕立ての脚本が巧妙だ。脚本を書いた「ミリオンダラー・ベイビー」がアカデミー作品賞、「クラッシュ」で監督・脚本賞、「硫黄島からの手紙」「父親たちの星条旗」の脚本にも携わっているポール・ハギスが製作・脚本・監督を兼ねている。星条旗への忠誠心で生きてきた軍人と父性愛のはざまに置かれた男が主人公だ。トミー・リー・ジョーンズをはじめ、妻役にスーザン・サランドン、シングル・マザーの刑事にシャーリーズ・セロンと、アカデミー賞俳優をそろえた演技も見どころだ。

 長男を空挺師団に送り出して失い、妻の反対を押しきって軍人にさせた二男までが、イラクから帰還して部隊から失踪する。軍は無許可離隊という不名誉な烙印を押す。息子と軍人一家の名誉のため、父親の軍警察の経歴を生かした真相究明がはじまる。そこで暴き出される事実は…。原作の題名になっている、旧約聖書から引用したダビデとゴライアテの故事に基づく「エラの谷」(In  the  Valley  of  Elah)を象徴的に散りばめ、国家と戦争、そして戦場へ送り出される若者というイラクでも繰り返される図式を見つめ、勇気とは何かまで問いかける。娯楽的要素を備えながら、硬質な内容で映画を堪能させる。

 昨年の東京国際映画祭のコンペティションで賞こそ逸したが、スタッフのたぎる思いが画面にみなぎっていたのが中井庸友監督の「ハブと拳骨」だった。ベトナム戦争下の沖縄は、まだ戦後を引きずってもいた。米軍兵相手のバーやクラブがひしめくコザを舞台に、基地の町で命をひさぐためには手段を選んではいられない人間たちの、バイタリティーと赤裸々な姿を描いている。

 ときには米兵と共存し、闇物資で稼ぐのも生きる方便。本土のヤクザも跋扈する。沖縄ばかりでなく、本土の基地の町もかつては同様だった。「火垂るの墓」とはまた違う視点で描かれた日本の実相である。主役の尚玄に熱さが、石田えりに存在感がある。

(写真:「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」)

 同じ東京国際映画祭で審査員特別賞を受賞した「1978年、冬」もまた過去を語る。映画祭では「思い出の西幹道」のタイトルだった。ちょうど30年前、文化大革命が終わったばかりの中国北部の町が舞台。18歳のスーピンと11歳のファントウ兄弟の前に現れた少女シュエン。北京から都会の風をまとって現れた少女の踊る姿に、兄は恋をし、弟は憧れる。

 「思い出の夏」(2002)のリー・チーシアン=李継賢監督の第3作。自身を投影したファントウの眼差しを通して、町や人や季節の空気が繊細に描かれる。時代を振り返っても、感傷には溺れない。政治的メッセージよりも、人生のひとこまにも哀切や胸の弾み、忘れがたい記憶があることを余韻に込める。

 「クライマーズ・ハイ」(原田眞人監督)もすでにNHKでドラマ化された。1985年の夏、御巣鷹山に墜落、520人の命を奪った日航機事故を題材にした原作横山秀夫の記者ものだ。地方紙の編集現場の描写は臨場感がある。全体を俯瞰した演出に力を感じる。

 だが疑問もある。主役の悠木和雅(堤真一)は“全権デスク”なのに、しばしば修羅場を離れる。血も涙もないワンマン社長(山崎努)の社長室や建物の豪勢さとは裏腹に、現場で使う無線機すらない。会社全体のチームワークも悪い。悠木と社長の関係も妙に陰湿だ。販売と編集の殴りあいといい、俳優たちが好演すればするほど、鼻白む場面に出くわす。それが地方紙だと言われれば、引き下がるしかない。

 それでも見応えがある。見終わって感動している。テレビの視聴率にへばりついた作品の横行に辟易している身としては、こうした本格的なドラマに喝采を送りたくなる。挿入曲「モナ・リザ」は「別働隊」の主題歌で、1950年のアカデミー歌曲賞。ナット・キング・コール盤も同年に録音された。時代に齟齬はないだろうか。

(写真:「純喫茶磯辺」)

 ご存知「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」(スティーブン・スピルバーグ監督)は、相変わらずのお楽しみ。「純喫茶磯辺」(吉田恵輔監督)の展開が楽しく、テンポもいい愛すべき作品になっている。ほかに「近距離恋愛」(ポール・ウェイランド監督)、「闘茶」(ワン・イェミン=王也民監督)、「スピードレーサー」(ウォシャウスキー兄弟監督)。イギリス発の警官もの「ホット・ファズ」(エドガー・ライト監督)に爆笑した。




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   中高年の「元気が出るページ」10周年記念会       (読者と執筆者の懇親会)へのお誘い


 いつも当ホームページをご愛読くださいましてありがとうございます。

 さて、当ホームページは今年8月で10周年を迎えます。これもひとえ に読者の皆様と執筆者のお陰と感謝しています。この機会に、読者と執筆者が一堂に会して、交流の集いを 催したいと思います。

 すでに予告してきましたので参加希望のお返事を頂いている方もありま すが、改めてご案内いたします。


日時:10月17日(金) 午後1時30分〜4時30分

会場:日本記者クラブ
   東京都千代田区内幸町2-2-1日本プレスセンタービル9F

定員:40名ですが既にお申込頂いている方がありますので、            先着順10 名で閉め切らせていただきます。(必ずお返事 いたします)


予定会費:7千円(懇親会立食パーティー代)

ご回答は、下記メールアドレスに次の項目をご記入の上お送りください。

1、お名前
2、ご住所
3、メールアドレス
4、参加希望のご回答
5、会内容へのアイディア、ご意見、ご要望


送り先メールアドレス:genki@abox3.so-net.ne.jp



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        中高年の「元気が出るページ」
           編集人 村上芳信

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