|
|
|||
|
その頃戦局は
|
![]() 西フロリダ島上陸 敵に遭遇 それからどれくらい時間が経っただろうか、無我夢中で、下が珊瑚礁になって背の立つところまでやっとたどり着くと、ふらふらになりながら一目散に浅瀬へ這い上がった。 二人とも息絶え絶えになり、やっとの思いで西フロリダの南端に上陸したのだ。しかし、このまま浜に倒れたままでいれば、明け方になって敵方に発見されてしまう。気を休める暇もなく、体を隠すところを見つけて歩いた。 まだ夜は明けきらず人影もない現地人の納屋に忍び込み、二人はぐったりして寝込んでしまった。 あれからどのぐらい寝たのか分からないが、英語で怒鳴っている声に驚いて飛び起きた。 宮川を起こしながら納屋の外をうかがうと、敵兵が畑の向うとこちらで大声を上げていた。芋を掘りにきて、芋のある場所を教えているらしい。こいつはヤバイとジャングルへ逃げ込もうとしたが、二人とも島へ上がるときに足の裏へウニの棘を刺していて、痛くて歩けない。仕方なく逆戻りして、海際に生えているマングローブの木の根っこの陰に飛び込み、カバが水中に鼻だけ出したような格好で隠れた。この後、敵兵の声からできるだけ遠ざかるように、海水に浸ったまま、根っこの陰づたいに移動していった。 マングローブの下には恐ろしい水中の微生物や魚がいて危険極まりないのだが、そ んなことは逃げるのに夢中で、考えもしなかった。海水の中を移動し、敵の声も聞こえない場所までくると、ウニの棘の痛さが激痛となっておそい、また岸へ這い上がった。 鱶に追われ、珊瑚礁の上にいる無数のウニの棘を踏みつけたり、敵兵の声に怯えて逃げ出したときには無我夢中でそれほど痛みを感じなかったものが、今はほっとして気持ちにゆとりができたせいか、我慢できないほど痛かった。 岸辺で体を乾かしながら足の裏を見て驚いた。足の裏が黒くなるほどびっしりと、ウニの棘が折れて突き刺さっていた。針を爪でつまんでは抜き出すのだが、両足にびっしり刺さったままなので、抜くのは大仕事だった。針の頭が足の裏に潜り込んでいるのは、持っている包丁の刃と指の爪とで挟んでは一本一本抜いた。 何時までも同じ場所にいるわけにもいかず、歩き出してみたが、二人とも痛さに顔をしかめどうにも我慢できなかった。下駄があればもう少し楽に歩けるのにと思った。そうだ、逃げてきたあの納屋に木の空箱があったのを思いだし、びっこを引きひきあたりを警戒しながら、また納屋に入り込み箱を盗んできた。 現地人の家は、どこも空き家になっていた。まだ戦争中なので、安全な地域へ避難し、そこで生活しているようだった。 下駄の鼻緒は、現地人の織物がすべてタコの木の葉でできていたのを思いだし、これで作ってみようと考えた。 私がラバウルにいたとき、原地人たちはどんな織物もタコの木の葉を蒸して柔らかにし、石で叩き繊維を取りだして、編んでいたのを見て知っていた。タコの木は根元がタコの足のように生えていて、葉は海藻コンブのように幅広の葉を下げていた。葉の青いうちは固くてそのままでは使えず、こちらは蒸すこともできないので、タコの木の枯れ葉を拾い、海水に浸して柔らかくし、石で叩いて繊維だけを取り出して、これを三つ編みのように縄に編んで鼻緒を作った。足の幅に合わせて板を包丁で切り、三つの穴も包丁の先でこじあけ、鼻緒をすげて歯のない二人分の下駄を作った。この下駄のおかげで、ジャングルの中も大分楽に歩き回ることができるようになった。 山歩きは包丁で草や木の葉を切ったり、木に傷をところどころ付け、元の寝ぐらへ戻れるように目印をして歩いた。 つづく 第12回は2月23日(火)の予定 読み終わったらこのウィンドウは閉じてください。 |