第14回
マリンの奇襲

 われわれの寝床は、バナナの枯れ葉を沢山集めて葉の芯をとり、積み上げた葉がこぼれないように四隅へ太い枝で囲って作った。そこへ、子ねずみのように枯葉の中へ潜り込んで寝た。
 これはマラリヤの蚊を防ぎ、体を保温するためには最適な方法だった。
 トカゲがわれわれの食い散らかしたものをねらって、夜になるとガサガサやってきた。
 眠りにつくころ、今度はトカゲがばかにうるさいなとふと葉の間から顔を出すと、迷彩服に鉄兜のマリン(米兵の陸戦隊員)が、薄暗くなったジャングルを掻き分けて、こちらへやってくるのが見えた。
 この時も、われわれには下駄が役立って、ジャングルのなかを足を痛めず、すわ一大事とばかり、一目散に海岸線へ二手に別れて逃げた。女椰子よりはずっと低い、男椰子の上へはいあがり、じっと息をころしていた。
 マリンたちは私が上にいるのも気付かずに、椰子の下をゆっくりゆっくり通り過ぎ、海岸線にでる手前で、
 「出てこい!」
 というような英語で怒鳴ってから、ダダダダダっと自動小銃を発射した。どこからともなく14、5人のマリンが集まり、上陸用舟艇を呼び、帰っていった。わたしは裸なのであちこち傷をしたが、二人ともまずは難を逃れることができた。
 後で分かったことだが、椰子の木は現地人の財産で、酋長がお祝いごとでもないかぎり切り倒すことはなく、現地人は絶対にやらないことだった。しかも切り倒し、ほったらかしたまま、さては日本兵の仕業と、現地人が米兵にご注進におよんだということのようだった。

 二度目の襲撃の時は、こちらの気づき方が遅れて、飛び出して逃げれば確実に撃たれるとおもい、近くの椰子の木が3本密集して生えている、三角地帯のど真中に慌てて逃げ込んで、椰子の枯葉を被って身をひそめた。ここならマリンに踏みつけられることはないと思ったのだ……。

   
    

 ところが、椰子の枯葉の裏には蟻の巣があったのだ。蟻は私の目といわず、耳といわずところかまわず体中に食いついてきた。が、命がけで我慢し、頑張るしかなかった。
 マリンたちはこの時、ジャングルが暗くなっているにもかかわらず、懐中電灯を持たずにやってきたのがわれわれにとっては幸運だった。
 動物狩りでもするように、数人が横一列に並び、仲間に 誤射されないため右から順にワン、ツウ、スリー、と番号を掛け合いながら、われわれを海岸へ追いだす作戦らしく、草むらをガサガサさせてやってきた。

   
   
 わたしのところへはエイト、ナインといった二人が挟むように迫ってきた。迷彩服を着たマリンの、牛の裏皮を使った編み上げの靴が目の前に現れた時には、蟻に食いつかれている目をぎゅっとつぶり、心の中で念仏を唱えた。

                                 つづく
第15回は3月16日(火)の予定
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