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| 現地人 某日、砂糖きび畑に入ってきびを一本折ると、現地人がニューッと眼の前に立っているではないか。 しまった! どうしよう、と宮川を見たが、彼も眼をキョトキョトするばかりで立ち竦んでいた。 誰もいるはずがないと思って入った畑に人がいた驚きと、あまりの近さにこちらはなんのなす術がなかった。 相手の現地人も畑にしゃがんで作業をしていて、われわれには気がつかなかったらしい。蓑虫のような異様な格好の二人を間近に見て、逃げ出すこともできず、呆然となって立ち竦んでいる様子だった。 私はどうにもならず、相手の顔を見て照れ笑いをしたような気がする。間を稼ごうとしたのか、相手の気を荒立てないようにしたのか分からないが、人間切羽詰まると、こんなことしかできないものだ。 手真似で、何か食べるものはないかと、現地人の家から盗んできた缶入りのきざみ煙草を出し、これと交換しないかと言うと、いまここには何も持ってきていない、部落へ帰れば食べ物はたくさんあるから一緒に来い――そういう意味らしい答えがかえってきた。 はて?素直にくっついて行っていいものか、宮川は目配せして行こうと合図している。 そうだ、現地人をだまして食べ物を頂戴するぐらい朝飯前だ、おかしなことがあったら食べてから逃げ出せばいいと勝手な解釈をして、一緒について行くことにした。 ところが現地の人間は、人を連れて行くのに自分は先にたって歩かない。われわれ二人にいいから先に歩けと指図してきたのには、勝手がちがってこちらが面食らった。 彼らは弓や槍を使う。敵に後ろを見せたら自分がやられると体で悟っているのだ。われわれより用心深く、けっこう頭がいいわい、などとへんに感心した。 なんだか、自分たちが先に歩かされてみると、今度はこちらが後ろからなにをされるか分からず落ちつかなかった。が、相手はたった一人、こっちは二人。 この部落にはかつて日本軍が使役に使った者もいて、少しは日本語の分かるのがいるだろう。行けばなんとかなる、と高をくくって歩いて行った。 道の分かれたところへ来て、どっちだと振り返ると、あっちだ、こっちだと後ろから指で指図してくる。 後で考えたことだが、これがまた運命の岐かれ道だったようにも思う。ここで捕まらずに逃げていれば、ジャングルの中で食べ物もなく、二人とも野垂れ死していたかも知れないのだ。 だいぶ山の中を歩かされて部落に着いた。 部落の入口近くの小屋に入って、ここで待っておれという。 暫くするとその男は、顔や体中に入れ墨をした酋長らしい老人と若者を従えて、足早にやってきた。 部落の中にある一軒にわれわれを招き入れ、バナナ、パパイヤ、甘酸っぱい南洋りんごとくるみなどを出してきて、さあ食えという。 小屋の外には女やこどもたちがニヤニヤしながら、われわれを見ていた。 二人が夢中になって食べるころには、女こどもの姿はなくなっていた。部落中の屈強の男たちが内に外に取り囲んでいるのも知らず、二人とも食べることに夢中だった。 お前の腰にさしている刃物はなんだ? それは切れないから研いでやると手真似でいうので、なにも考えずに手渡した。 われわれの話を遠巻きにして聞いていた男たちが、突然、一斉に立ち上がるとワッとこちらに襲いかかってきて、袋だたきにされてしまった。暴れられては面倒と相手も死に物狂いで、二人を取り押さえて素手で殴ったり、棒でひっぱたかれた。鼻血を出し、脳しんとうをおこして、眼の前が真っ暗になってしまった。 気がついたときには、両手は手首から肘まで、両足はくるぶしから膝まで、木の皮でぐるぐる巻きにされていた。 宮川も同じようにされていた。頭が朦朧とする中で、あの納屋にずらりと並んでいた髑髏を思い浮かべ、われわれもあんな風になるのかと思うと体中が凍りつくようだった。 なにしろ彼らは40年ほど前までは食人種だった、と聞かされていたのだから。 つづく 第18回は4月6日(火)の予定 読み終わったらこのウィンドウは閉じてください。 |