第7回
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 やはり私が外へ出た姿を見られたか? 穴の中の物音を聞き付けたのか? どちらかだと思った。
 これでわれわれも一巻の終わり。またまた地獄の一丁目だ。
 ダイナマイトは土をちょっと掘り火薬を詰め、導火線に火をつければ数分でドカンと終わりだ。まさに危機一髪のところだった。
 それにしては馬鹿に時間が掛かっているなと思った。
 われわれを捕まえに来るつもりか?
 日本の軍人は敵の捕虜になることは、死よりも恥ずかしいことと教育されていた。
 敵は今にも入口を掘り返しどっとなだれ込んできそうだ。奥へ逃げ込むしかない。急いで自分たちが居た跡をかき消すために、寝起きしていた場所を崩し、水没させた。島中尉のコートは湿気にやられ土の上から剥がしたときには、ずたずたに裂けてしまったので、軍票が入っていたトランクと一緒に土の中へ埋めた。
 梅干し樽は、埋めている暇がないので奥へ持ち込んだ。突き当たりは、さらに狭く二人が膝を抱えて入る程度の広さしかない。われわれは自分たちの姿を隠すためと、ここが突き当たりと勘違いさせるための偽装工作をすることにした。
 自分たちが入る手前に、崩れ落ちている岩や石で遮断した。真っ暗闇の中で岩や石を抱えては積み上げていった。その時私がまだ手を引っ込めない内に、宮川が岩をどすんと積んだために中指を潰してしまった。が、捕まるかもしれない恐怖が先に立って、痛さを感じている暇がない。自分のふんどしの前を裂いて包帯にし、指を結わいた。
 小一時間ほどたって、ぼんやり辺りが明るくなった。
 とうとう敵が侵入してきた。
 私は息を殺し、包丁をぎゅっと握り身構えた。
 敵兵たちが、がやがやと懐中電灯をちらつかせ、じゃぼじゃぼ水を蹴散らしながら近づいてくる姿を岩の隙間から見ていた。
 全員上半身裸で半ズボンという格好だ。丸腰、武器も何も持っていない。
 あれから50日ちかく過ぎているので、まさかこんな中に人間がまだ生きていようとは、敵さんすこしも思っていない様子だ。
 この防空壕は、上官たちの出入りが激しく集中砲火を浴びたくらいだったから、敵も先刻承知で、日本軍の機密が残されていないかを、調べにきたように思えた。そうは思っても、われわれは岩一枚こっちに息を殺しているのだ。生きた心地がしない。
 岩の隙間から顔や体に突き刺すような懐中電灯の明りに驚いて、顔がゆがみ思わず
 「赤鬼だ!」
 と声を上げてしまいそうな衝動にかられた。われわれの隠れている俄仕立ての突き当たりには、少しも気づいた様子もなく、一通り調べ終ると、彼等は冗談でも言い合っているのか陽気に引き上げていった。
 天井から落ちる滴は、われわれの足跡を完全に消してくれて助かった。敵が去っていった後、二人は腰が抜けたようになり、暫く立てず、口もきけなかった。
 入口はポッカリとあいたままになった。
 敵がまた何時不意に入ってくるかわからず、かえって危険な状態となっていた。
                                  つづく
第8回は1月26日(火)の予定
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