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タムタム(太鼓)の音が響いている……意外に近くに聞こえる!と思った時、はっと一気に目が覚めた。午前中の強行軍に疲れ果てて、ちょっと一休みとベッドに横たわったまま、いつの間にか寝入ってしまったらしい。隣のベッドにやすんでいた安田さんに声をかけ、急いでカメラとカセットを持って外へでた。 宿舎から100メートルばかり離れた広場では、午後の暑い日差しの中で、カラフルな仮面の踊りが始まっていた。激しく打ちならすタムタムのリズムに乗って、様々な仮面をかぶり、赤い腰みのを着けた踊り手が、30人くらい大きな輪になって踊っていた。狂乱したように上半身をくねらせながら回転し、空中に跳躍する。その踊りが済むと別の一団が入ってきた。 ドゴン族の踊りはドラマでもあった。サンガ村の長老の息子アナガリ・ゴゴバラ・ドルーという人が、踊りを見ながら傍らで話すのを、ママディが英語で伝え、森本先生が私たちに通訳して下さった。それによると、 「ドゴンの神話的世界では、はじめ人間は不死身であり、年老いたものはヘビの形に変身させられた。その祖先の霊力を宿すヘビの形に似た大仮面を作って、60年に1度盛大な祭礼を行うようになったのは、つぎのようなドラマに由来している。 昔、ドゴンの若い女が、ピグミー(小人)がお面をつけて踊っているのを見かけて、夫に知らせたところ、夫がそれにむかって石を投げたので、ピグミーは驚いてお面を残して逃げていった。女はそっとそのお面を持ち帰り穀物倉の中にかくしていた。ある時それを見付けた夫が、余りに奇怪なお面に驚き怒ったので、女は、女の家(月経中の女が籠る家)に逃げ込んでしまった。その後そのお面は山の中にかくされていたが、ピグミーの老人によって、そのお面が神聖なお面であり、やたらに持ち出して使ったりしてはいけない、と堅く言い付けられた。ところがドゴンの若者がそのいいつけに背いて、勝手にお面を持ち出して使ったため、人間に死が訪れるようになってしまった。たたりにびっくりした人々は、村に祭ってある神様にお伺いを立てたところ、老人に深くお詫びをして、悪霊をしずめるために、60年ごとに祭礼をするよう告げられたという。 60年に1度の祭礼には、祭りに先立ってヘビの仮面を彫刻し、多くの供物を供えて聖なる場所に安置しなければいけない。その儀礼が今も続けられていて、前回は1973年に行われたので、次は2033年ということになる」 強烈なタムタムのリズムに合わせて、全身で激しく踊る仮面の群舞もやがて終り、一緒に記念写真を撮ることになった。踊り手たちの漆黒の肌からは、光った玉のような汗が滴り落ち、荒い呼吸が伝わってきた。険しい断崖絶壁のために、外部からの影響を受けることなく、祖先の伝統を受け継いで、独自の造型文化がそのまま伝えられているのであろうか。 「ドゴンの人々の生活を基礎付けている宇宙開闢説や、神話的な世界観では、個人は1個の小宇宙であり、個人の内で神と人が出会い、自己と他者が出会うと言っている。残念ながら今回は2泊でなかったので、神話に基づいての昔ながらの生活が残っているという、村の中をゆっくり見ることができなかった、ドゴン族の神話的世界に興味のある人は、ドゴン族の研究で著名な、フランスの民族学者マルセル・グリオールの『水の神』を読んで御覧なさい」 日も既に暮れかかってきた。モプチへ帰る車の中で、森本先生のお話を聞きながら、私の心の中でアフリカはますます膨らみ始めた。帰ったら早速『水の神』を買って読んでみよう。 暗くなって帰りついたモプチのホテルの玄関には、トンブクトゥまで行ってしまった荷物が届いていて、私たちを待っていた。強行軍の疲れも吹き飛んで、10日ぶりにやっと手にすることができた荷物に、わっと喚声が上がった。 中川氏の心労で疲れた顔が、安堵したように傍らで綻んでいた。 (第2章 第8回/終) ┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬次回更新は7月25日(火)┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬┬
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